かつ、敢然として容赦なき戦ひを戦つた。これが「ますらを」の精神であり、国民の矜りでもある。われわれの揺籃の歌は「戦ひの花」に満ちてをり「泣いて馬謖を斬る」ことは、支那ではともかく、日本では朝飯前である。
 戦争の形態と条件とが、必然的に時代の色を帯びることはもちろんながら、既に国民性とも云ふべきこの峻烈にして高雅な心情を、何人も無視してはならぬ。
 敵のなかの「敵でないもの」を故ら認めず、いはゆる「袈裟」まで憎ましめるといふやり口は、単に日本の伝統に反するのみならず、味方のなかの「敵」をどうかすると見逃すことになり、まして、敵とも味方ともつかぬものの始末に手古摺るといふ結果を生じ易い。
 国民の士気は、もともと感情にのみ支配されるのではなく、常に良心の満足と、自ら恃むところによつて、はじめて振ひ、如何に厳しくとも、おほらかな戦ひを戦ふことによつて、益々昂るのである。最後の勝利も、かくて一段と輝かしく、鞏固なものとなるであらう。

     卑俗といふこと

 卑俗といふことが近頃あまり問題にされなくなつた。卑俗の最も恐るべきは、それが世間普通のこととなり易いところにあるとすれば、今まさ
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