同じ心を心としてゐる筈のこの時局下でさへ、何を「頼もしい」とするかは、ずゐぶん人によつて違ふと思ふ。
私が特に云ひたいことは、ほんたうに「頼もしい」と感じられるものが、実は衆目の集るところ、世間の表面に浮びでたところよりも、ふと何気なくあるもの、ぢつと底に沈んでゐるもののなかに、寧ろはつきり認められるといふことである。
これは私の天邪鬼が言はせるのではあるまい。ぱつと人目をひくもののなかには、もう既に「頼もしさ」のある条件が欠けてゐるやうな気さへする。
その意味で、当節、最も「頼もしく」私に思はれ、また事実、さうであるに違ひないのは、無名の戦士を筆頭として、多くは年若き同胞のうちにみられる「落ちついて順番を待つ」といふやうなあの黙々とした姿である。
また、一方、なにやかやと追ひたてられるやうな日常生活の隅々で、私は、嘗ては気のつかなかつた日本人の「不覚をとるまい」とするつゝましい「嗜み」のあらはれを、だんだん多く見かけるやうになつたことを注意したい。
文学に於ても、語られてゐること以上に、作家のさういふ表情が、文体に見事な自然さを与へはじめた。品位といふものはこゝにもあつたの
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