を思想するもののみの興味を惹くに足る問題である。
 観念としての思想が、やゝもすれば脆弱な性格の衣裳となつて、純然たる思想の悲劇ではなく、奇怪な思想の軽喜劇を演ずることを、時代の現象として後世はなんとみるであらう。

     掛値とマイナス主義

 現代の教育について多くの革新意見が提出された。いづれも当を得た、あるひは虚を衝いた意見のやうにうけとれる。
 尻馬に乗るわけではないが、平生から疑問に思つてゐることを、私もついでに云はせてもらへば、ひとつは、道徳教育の上で「これくらゐに云つておいて丁度いゝ」といふやり方、つまり例外を一般の目標にさせようとする見えすいた掛値主義がこれである。それから、学校の試験制度は止むを得ないとして、試験の採点に、なぜ「間違ひ」だけ点を引くことによつて成績の上下をきめ、問題に対する予想以上の名答に対して、その問題に割当てられた点数以上の点数を与へることにより、答案全体の成績を引き上げることをしないのか。例へば二問題のうち、一問題が仮に零点でも、残りの一問題が予想以上に優秀な答案になつてゐたら、極端に云へば敢て満点をつけてもいゝではないかといふことがひとつ
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