ある。例へば大戦後の独逸劇壇を席捲した表現主義の如きは、かのストリンドベリイを始祖とするものといはれてゐるが、遂に他の諸国には波及することなく終つたのである。(日本劇壇の新流行を迎へ入れる動機はこれと全く別である。)
近代文化の歴史は、この原則なしに考へることはできないのみならず、文学の流派の消長、珠に戯曲の様式とその進化の跡を尋ねるに当つて、一時代、一傾向を代表する所謂「天才」の業績についても、専らその因つて来たるところ、その及ぼすところを究めようとする態度が必要であると思ふ。
三 近代劇の諸相
近代劇の諸相として、過去半世紀の演劇的現象を詳しく述べる代りに、多少無理なところはあると思ふが、所謂「近代劇」なる名称を以て呼ばれる「劇文学」及び「舞台芸術」を通じて、今日、漠然と感じ得られる若干の特色を挙げてみることにする。
そのためには、先づ「近代劇運動」の全貌を、文学上の流派的色彩や、個々の舞台芸術論から引離し、一応、演劇の革新運動といふ意味に結びつけて考へる必要があるのであつて、この「革新」なる言葉の目指す一切の意義こそは、やがて、歴史的に、近代劇を貫く重要な精神
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