れないやうな仕事がある。それを料理に例へてみると、国家のためには魚のこゝをかう切つた方がよからうと云つても、これはをかしなことだ。料理人としての時局認識から云つても、魚の尾を捨てる代りに豚の餌にしようといふくらゐが関の山だが、僕はさうぢやなくて、国民が今日国家のために役立つといふことは、もつと全人格の上に立つて考へなくちやならんと思ふ。一体自分は新体制であると個人的に云ひ切れる人は、実は本当に自分を見てゐるかどうか、もう一度考へ直して欲しいと思ふ。今日に至つて、このまゝではいけない、なんとか自分を鍛へ直さねばならぬといふ気持でゐるといふことをお互に知つて、もつと温く、お互に接し合はなければいかん。本当に必要なことは、個人がどう変るかといふことであるけれども、しかしそのためにお互に有無相通ずるといふ便宜な組織を作つて、さうして力の弱い国民が同じ国民としての働きができるやうに、引つ張つて行くことが肝要なのだ。
一体これほどいゝと分りきつたこと、或はやればいゝと分りきつたことがどうして今まで行はれないか。それは要するに、今までの政治家とか或は官公吏とかの責任のあり場所が曖昧なことによるので
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