ては、現今の情勢に於て、新劇団関係者全体の希望と興味を集中させることは、あらゆる意味で不可能であり、その精神をすら理解せしめる方法はないやうに思ふ。
 なぜなら、その単一劇団の指導及び管理は誰がするかといふ点になると、村山氏の答へは、甚だ理想的すぎる。一劇団の存在は、あらゆる「芸術的傾向」の人々を満足させ得るといふことはあり得べからざることで、たとへ如何なる考慮が払はれてゐるにせよ、近き将来に於て、最も「近くにあるもの」が、実質的指導権を握り、その偏向は直ちに、これに反する側の人々を失望或は反撥せしめるにきまつてゐる。或は仮にその劇団が、日本新劇を代表する立派な劇団たり得たとしても、そのためには、殊更新劇関係者と称するものの大部を、置去りにしなければならないのである。従つて、その劇団と個人的利害を倶にし得ない人々は、それぞれの好みと才能に応じ、自分に適当した劇団の誕生を促すといふのが自然の勢であり、この法則に反して、何人をも単一劇団の支持者たらしめようとする計画は、理想としてもやや首肯し得ない点がある。しかし、僕は、現在強力にして無色なる一劇団を誰かが作るといふ場合には、それに賛成し、
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