ら改行天付き、折り返して1字下げ]
男  少し病院ですね、このホテルは……。
夫人  (驚いて、男の顔を見る)
男  新聞、御覧になりますか。
夫人  いゝえ……。

[#ここから5字下げ]
夫人は、起ち上る。そして、そのまゝ、階段を昇りはじめる。
男は、左の扉をあけて、外に出る。
やがて、るいが現はれる。電気のスヰッチをひねる。部屋が薄暗くなる。
そこへ、男がはひつて来る。
彼女は、丁度扉の鍵をかけようとしてゐたのだ。
彼女は、「あ」と、ひと声、それは、軽い陳謝の意味に過ぎない。
男は、そのまゝ、部屋を横ぎつて二階に上る。
彼女は、鍵をかけ終つて、静かに、しかし、勿体らしく、部屋の中をひと廻りしてから、やつと右手のホールへ姿を消す。

波の音と共に――
[#ここで字下げ終わり]

[#地から5字上げ]幕



底本:「岸田國士全集5」岩波書店
   1991(平成3)年1月9日発行
底本の親本:「職業」改造社
   1934(昭和9)年5月17日発行
初出:「中央公論 第四十七年第五号」
   1932(昭和7)年5月1日発行
入力:kompass
校正:門田裕志
2008年3月19日作成
青空文庫作成ファイル:
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