ふ面も強調されながら、その教育的面に主力が注がれたなれば、防諜関係といふやうな制約を超えて新しい一つの国策宣伝の目的に副ふやうな仕事が出来るのではないだらうかと思ひまして、その点を期待する次第であります。その国策宣伝に副ふやうに観光事業を持つて行くにはどうしたらいゝかといふ点、これは恐らくこの会議を通じて色々議題に上つたことゝ存じます。
私は此処で具体的のことを申上げるのは大変僭越でありますが、素人はさういふ考へ方をするのだといふ意味で御参考になるかと思ふので一二申上げて見ますが、今旅行をしても、ホテルに泊つても、外国から来たお客の種類が非常に違つて居ります。それは直ぐ気が付く。帝国ホテルなどで夕飯を食つて居りましても、周囲で話される外国語は、これは正確には知りませんが、私の気の付いた所でも半年位の間に非常に変つて居る。英語が非常に少くなつてドイツ語、イタリー語が非常に殖えて居るやうに思ひます。詰り枢軸国の旅行者が可なり殖えて居る。又其の枢軸国の旅行者は色々経済的の目的で来て居る人もあらうと思ひますが、公けの目的を帯びた人もあり、又自分だけで或研究をして居る人もあらうと思ひます。かういふ枢軸国の人々に対する新しい日本認識の基礎を観光事業に携つて居る方々が与へて下されば結構だと思ひます。具体的な一例と致しましては、今まで大体英語国民を中心として色々文書等が刊行されて居る。英語国民を対象として居るといふことは必ずしも英語で書かれて居るといふことだけではなかつたと思ふ。
詰り英語国民の心理なり英語国民の好尚に対して十分の理解の上に立つた宣伝だつたと思ひますが、英語国民と独伊の国民との間には非常に大きな心理的な相違があり、好みの上でも独伊はそれ/″\違ひますけれども、今日まで日本人が接触した欧米人の中で特色を持つた民族だと思ひます。
斯ういふ意味で独伊国民に対する日本人の接触の仕方、或は日本認識のさせ方には一つの心構と技術が必要のやうに思ふのであります。先程例に引いたドイツの人と話をして居る時にかういふ話をきいたのであります。それは自分は日本人が如何にして創られつゝあるかを一年半日本にゐて見て研究したが、主として田舎を見た。どうも大都会では自分の観察が非常に散漫になつて考を纏めるのに困難なばかりでなく、どうも大都会には日本人の本当の姿が映つて居ないやうなので主として地
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