ますのは都会の文化は表面的には非常に華やかなやうでありまして、都会には文化が集中して居るといふやうな印象さへ与へるのでありますが、事実は都会の文化は外国文化の模倣乃至影響が主でありまして、その中には機械文明乃至は物質文明として十分採入れていゝものもありますけれども、併しそのために日本本来の健康な文化的要素といふものが非常に稀薄になつて居ります。此の稀薄になつて居るといふことが都会文化の頽廃といふことを招いて居る。
今日健全な文化の育成といふことが問題になつて居る以上、どうしても日本にある根強い民族文化を此処でもう一度見直すと、その民族文化は必ず日本の土に根を下し、日本人の生活の中に根を張つて居る。これを土台にして新時代の文化を其の上に築いて行かなければならぬ。それにはどうしても都会よりも寧ろ都会を離れた地方、特に大都会よりも地方の小都会といふ所に残つて居る伝統を十分尊重して行かなければならぬ。従つてさういふ所にある地方独得の文化といふものを十分検討してその中にある健全な芽を伸ばして行く、といふことが地方文化運動の一つの目標であります。それと同時にさういふ土台の上に築かれた文化がその地方の一般民衆の生活に良い一つの文化的の栄養を与へる。これが第二の目的であります。唯地方の文化の遺産を特殊な人が独占して、特殊な人がそれを誇りにして居るといふことではいけないので、さういふものがあればその地方の人達がさういふ文化を自分の身に附けて、さういふ文化を十分誇りとし得るやうな、さういふ一つの方法が講ぜられなければならぬと思つて居ります。地方の文化団体はさういふ意味に於て、所謂地方の文化人が唯自慰的に其の地方に残つて居るものを掘出して、金持が骨董を弄ぶやうにそれを自分の書斎なり座敷なりに飾つて置くといふやうなことでなく、さういふものを基礎としてその地方の民衆一般の自信と活動力とを与へて行くといふことを考へねばならぬ。
従つてその地方に於ける名所旧蹟といふものも今日までは他所から見に来る者に見せて置けばいゝ、見せるのに適当な施設をすればいゝといふ考へ方であつたのでありますが、将来は地方の文化運動と致しましては、其の地方の名所旧蹟は其の地方の誇りとして、其の地方の人々の手に依つて最も美しくさうして最も品位の高いものにして行かなければならぬと思ひます。それには其の地方の人達が十分名所旧
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