象がだんだん影を薄くして行くのである。
 最近観たものと限られては非常に窮屈になるから、私だけは特別の詮議で、今迄観たものといふ風にして感想を述べさせて貰ひたい。映画について印象めいたものを書くのはこれが始めてだし、さう古いことは思ひ出さうとしても思ひ出せないんですからいゝでせう。
 私が活動写真を観て、始めて芸術的感激をうけたのは「車輪《ラ・ルウ》」が巴里で封切された時だ。あゝいふ感激は二度繰返されるものでないことは知つてゐるが、その後チヤツプリンの「小僧《キツヅ》」といふのを見て悦んだことがある。「面影」は非常に佳い場面と映画には無理だと思ふ場面とが頭に残つてゐる。
「最後の人」は映画の技術と、ヤニングといふ名優型の役者に心を惹かれた。
「ヴアリエテ」はちつとも面白くなかつた。
「レ・ミゼラブル」はユゴオの通俗的半面のみを誇張した愚作であり、「タルチユフ」はモリエールを履き違へ、オート・コメデイイの精神を解しない醜悪な写真である。
 こんなものよりは、「チヤング」のやうな実写的のものの方が見てゐて退屈しない。但し、実写なら実写らしく、変な芝居気を抜いて、素直に紹介の役目だけを果して
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