感想
岸田國士

−−
【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)むき[#「むき」に傍点]になつて
−−

 文学といふものを専門的なものと考へる理由は十分にあるが、また、これを専門的なものではないと考へる一面がある筈である。
 専門家にしか興味のないやうな文学と、専門家には興味がないやうな文学(?)とが截然と別れてゐるところに、わが国現代文化の特殊性があるとみて、私は、今日のわれわれの仕事といふものの困難を、つくづく感じるのである。
 個人々々の問題はしばらく措くとして、文学者一般が、世間なるものをどんなに遠いところにおいて眺めてゐるか、世間はまた文学者なるものを、どんなに「変つた存在」として扱つてゐるか、この点、誰でも気がついてゐるやうで、実はそれほど気にしてゐない事実を私は不思議に思ふ。
 今や、文壇といふ特殊国には、世間一般に通用しない風俗習慣があり、言語があるのであつて、これに従ひ、それを重んじなければ、少くとも専門家の資格を欠くことになり、純文学は、これによつて、心境を研ぎすまし、大衆文学はこれによつて、厚化粧を施すの
次へ
全5ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング