積み最も光彩を放つてゐる人々である。少数の新派俳優、二三の新劇俳優を除いては、現在「芝居の出来る」俳優といへば、大部分歌舞伎畑に育つた人々である。これらの人々は、将来歌舞伎劇そのものと運命を倶にしなければならないだらうか。「おれが生きてゐる間は、歌舞伎の天下だ」と云つて安心してをられる人もあるだらうが、その人たちの子供はどうなるのだ。その人たちの若い弟子はどうなるのだ。
 私は、前に、歌舞伎劇は滅びないと云つた。しかし、これからの劇場は、歌舞伎劇のために、座席の総てを与へようとはしない。二つか三つの劇場は、永久に歌舞伎の家として残されるだらう。或は、ことによると、たつた一つの劇場が、歌舞伎の守るべき城であるかもわからない。
 さうなつた時、歌舞伎俳優はどうするか。
「さうしたら、新しいものをやるさ。腕に覚えはあるんだから……」
 しかし、その時代には、もう、「新しいもの」をやる専門の俳優が生れてゐるのである。やれると思つてゐたことが、やれなくなつてゐるのである。

 ところで、私は、現在の歌舞伎俳優が、「このままで大丈夫だ」といふ迷夢を醒ますことによつて、歌舞伎劇そのものの生命を永くさ
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