音の世界
岸田國士
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)何時《いつ》まで
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから5字下げ]
−−
[#ここから5字下げ]
女
男甲
男乙
其の他
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]
[#ここから5字下げ]
舞台は、連絡なき三つの場所を同時に示し得るやう、その空間を利用して、それぞれ独立した装置を施す。
三つの情景は、大体次の如き関係に配置されてゐればよい。
[#ここから9字下げ]
Aは、ホテルのアパルトマンに属する贅沢なサロン。
Bは、別のホテルの一人用寝台附小室。
Cは、ある商店の電話室。
[#ここで字下げ終わり]
[#A、B、Cの図省略]
[#改ページ]
[#ここから5字下げ]
時刻は午後九時。
Aの部屋では、男甲がソフアに倚つて夕刊を読んでゐる。その妻らしき女が、隣室から出て来る。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
女 ちよつと、大きい方のトランクを開けて頂戴な。
男甲 もう寝るんだから、明日にしたらどうだ。
女 今、いるもんがあるのよ。
男甲 なにがいるんだ。
女 いゝから開けて頂戴つたら……。
[#ここから5字下げ]
男甲、渋々起つて隣室にはひる。女、その後に続く。
この時、Bの部屋へ、男乙が、外から帰つて来る。帽子を被つたまゝ寝台の上に寝ころがる。が、すぐにまた起き上り、電話の受話器を外す。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
男乙 もし、もし、都ホテルへ繋いでくれ給へ。あゝ、都ホテル……。もし、もし、そちら、都ホテルですか。楠見つていふ人ゐますね。えゝ、さうです、夫婦連れの……。今、ゐますね。僕の名前は云はなくつてもよろしい。すぐ繋いで下さい……。
[#ここから5字下げ]
Aの部屋の電話が鳴る。女が電話口に現れる。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
女 もし、もし……えゝ、さうです。はい、どうぞ……。
男乙 ありがたう。あ、もし、もし……。
女 どなた様でいらつしやいますか。
男乙 今晩は……。僕だよ。
女 あゝ、さう……(ちよつと隣室の方に眼をやり)今、何処から……?
男乙 ステー
次へ
全11ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング