。同じこつたよ。(間)今、何してるつて訊きやがつた。
並木の妻  なんて云つたの。
並木  本屋にゐるつて云つといた。
並木の妻  どこの本屋かつて訊きやしなかつた?
並木  訊かない。あいつは、そんなことに興味はないんだ。しかし、お前のことは訊いたぜ。
並木の妻  どんなこと?
並木  学校は何処だとかなんとか……。それに、気味の悪いほど褒めてたぜ。
並木の妻  なんて?
並木  いろんなことさ。それはさうと、あいつ失敬な奴だよ。金がいるならいつでも云へつて云やがつた。
並木の妻  まあ……。でも察してるのね。
並木  久しぶりで会つて、そんなこと云ふ奴があるかい。馬鹿云へつて呶鳴つてやつた。
並木の妻  およしなさいよ、折角深切で云つてくれるのに……。だから食事を一緒につて云ふのも断つたの?
並木  さうさ。(間)あいつに金を借りて、その金で一重帯を買はうか。
並木の妻  あなたにできる、それが……。
並木  できるさ、しようと思へば……。
並木の妻  うそばつかし……。
並木  どうしてさ。どうしてできない?
並木の妻  あなたに、そんなことまでさせたくないわ、いくらなんだつて…
前へ 次へ
全21ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング