ゐる。
三輪  君らしい道楽だね。
並木  それやさうだ。
三輪  いや、さういふ意味ぢやなくさ……。ねえ、奥さん、今日は久し振りで並木君とも会つたんですし、奥さんとは初めてお近附きになつたんだから、一つ、御一緒にゆつくり食事でもしようぢやありませんか。
三輪の妻  賛成ですわ。
三輪  お前が賛成なこたわかつとる。どうです。御差支はありますまい。
並木の妻  (夫の方を見ながら)でも……。
並木  さうさなあ。
三輪  いゝぢやないか、君……。
並木の妻  このなりぢや、あたくし……。
三輪の妻  あら、あたくしを御覧遊ばせ……。
三輪  着物なんかかまふもんですか。ぢや、どこか気の張らない処へ御案内しますよ。
並木  しかし、僕達はなんだよ……。
三輪  まあ、まかしときたまい。(妻に向ひ)ぢや、お前買ひ物があるなら、さつさと済ませて来ないか。おれはここで並木君と大に談じてるから……。
三輪の妻  (夫の耳に口を寄せて何か云ふ)
三輪  さうさ、あたり前さ。
並木  (妻に)お前も何か見るつて云つてたぢやないか。見て来いよ。
並木の妻  (夫の耳もとで何か囁く)
並木  かまふもんか、そんなこと……。

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女どもは互に顔を見合ひ、笑ひながら退場。
[#ここで字下げ終わり]

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三輪  なかなか可愛らしい細君ぢやないか。
並木  先手を打たれたか。君のこそ、逸物だね。どこかで見たことがあると思ふんだが、雑誌の口絵かな。
三輪  そんな代物ぢやない。子供はまだかい。
並木  短兵急だね。不幸にして二人目だよ。
三輪  目とは……?
並木  (にやにや笑つてゐる)
三輪  あゝ、さうか、気がつかなかつた。
並木  そんなことはどうでもいゝが、君は、いつまでも若いね。幸福かい。
三輪  幸福でないこともないが、さういふ君は、見かけほどでもないのかい。
並木  見かけはどうだか知らんが、一向パツとしないよ。
三輪  迂闊な話だが、君は、今……?
並木  住んでる処かい。
三輪  あゝ、それも聞きたいが、一体、今、何をしてるんだい。
並木  何つて、何も出来やしないよ。
三輪  学校を出てから、何か書いてるつていふ話は聞いてたが……。
並木  その頃は、あれでも、何かしてゐたよ。今ぢや君、仕事つていふ名のつく
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