演劇漫話
岸田國士

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)科《しぐさ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)すき[#「すき」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)シヤア/\
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     一、新劇と旧劇

 現今、芝居好きと称する人のうちで、旧劇はつまらないと云つて見に行かない人もあるでせう。しかし、それは極少数の「新しがり」に限られてゐると云つてよろしい。之に反して、新劇は見るに堪へないと公言して憚らない人のうちには、相当、見識のある芸術愛好者が、可なり多くあることは事実です。
 旧劇は一概につまらないと云ふ側の人々は、旧劇には優れた文学が無いからといふ理由を挙げるでせう。しかし、旧劇は、今日ではもう立派に文学の羈絆を脱してゐる完成品です。たゞ、旧劇俳優のうちには、その旧劇独自の存在理由に着眼せず、徒らに、「旧劇の文学」に心酔して自己の世界を狭め、自己の芸術を低調ならしめてゐる自称新人の多いことは遺憾であります、従つて、之等の旧劇界の新人等は、たまたま新劇に手を染るに当つても殆ど常に
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