、一に演劇の本質に徹した先見ある舞台芸術家の、真摯なる努力に俟たなければならない。しかも、演劇はその構成の上から、如何に天才と雖も、一人の手でこれを造り上げることは絶対に不可能な性質をもつてゐる。そこで、一つの演劇は、幾人かの協同動作といふことになる。従つて、演劇の「創造者」は一人の作家でも、一人の舞台監督でも、一人の俳優でもなく、結局一つの「劇団」なる有機的組織の精神的並びに肉体的存在であります。此の存在は、恰も一個人の存在と異るところはない。そこに一切の秘密がある。一切の希望、一切の苦悶、一切の歓喜、一切の意志と運命があるのであります。
 一つの「劇団」は一個人の如く活きてゐる。――この事実は、「劇団を組織する人々」の所謂合議制を認めないのみならず、君主の専制に対する盲目的服従をも認めないのであります。
 かうなると、実際に一つの劇団を統率する人格は、その劇団の首脳として、一般社会の、あらゆる組織中に見出し得ない、一個特別な職能と地位とを与へられてゐるわけである。今日まで、幾多の劇団が、大きな抱負をもつて生まれ、その抱負を実現し得ずして瓦解した、その原因の主なる一つは、「劇団の組織
前へ 次へ
全100ページ中93ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング