演劇の本質は、かくの如き舞台に於て、最も完全に表現し得ることは云ふまでもありません。
 これで聊か支離滅裂ながら「演劇とは如何なるものか」といふこと、並びに「芸術的演劇の本質とは何を指すか」といふこと、此の二つの大きな問題について、一と通りの観念が造られたと思ひます。
 実を云ふと、論者自身も亦、演劇の本質といふ問題で、いろいろ考へてゐる時代なのです。これからその考へを纏め上げるまでに、相当の年月を要するに違ひありません。然し、今まで述べた事柄は、なほ敷衍する必要はあるにしても、それぞれ演劇研究者の進路に横はつてゐる大きな問題の一端を示してゐるつもりであります。
 演劇の本質といふ問題に関しては、先づこれくらゐに止めて、次には、新劇運動が齎した諸種の問題について一応解説をして置きたいと思ひます。

     近代演劇運動の諸相

       (一)小劇場主義と大劇場主義

 前の講話で、演劇の芸術的純化、舞台表現の進化並びに演劇の本質を論じましたが、それぞれの機会に、努めて、演劇そのものゝ史的考察を忘れなかつたつもりであります。
 これから述べようとする近代演劇運動の諸相は、一面
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