ウては「物語」に発展して益々完全な心理的要素となるのであります。そこから所謂舞踊劇が生れることになる。
 舞踊劇《バレエ》は、多少複雑な心理的要素を「主題」として具へてゐるのでありますが、それも、抒情詩の程度を超えてはゐない。殊に「身振り」よりも「舞踊」を主とする点に於て、殊に背景、衣裳、音曲等の感覚的要素によつて、寧ろ「主題」の有つ心理的要素を暗示する企図が主要な部分を占めてゐる点に於て、「感覚的要素を主とする演劇」の出発点に位置すべきものであります。
 その「主題」が漸次複雑となつて遂に純然たる「物語」となり、「舞踊」よりも「身振り」が主となり、音曲に「歌曲」が加はつて「歌詞」を用ふる「物語」の発展に終る時、それが歌劇《オペラ》といふ形式になる。これはもう「感覚的要素を主とする演劇」といふよりも「感覚的要素が心理的要素と、その地位を争ひつゝある演劇」と云ふ、変な名前をつけなければならなくなる。「舞踊」が皆無となり、「身振り」が「科《しぐさ》」となり、「歌詞」の一部が「白《せりふ》」となる喜歌劇よりヴォードヴィルに至つて、益々此の傾向が著しくなる。
「感覚的要素が心理的要素とその地位
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