Aまたそこに到る一つの小道が、案外文学などゝいふやうな国に通じてゐないとも限らないのであります。
 そこで、さういふ面倒な問題は当分抜きにして、われわれが今日まで知つてゐる演劇といふもの、演劇と呼ばるべきもの、そのさまざまな形式について、一と通りそれぞれの本質を吟味して見ませう。
 先づ順序から云つて、最も単純な感覚的要素を主とするものから、次第に、複雑な心理的要素を主とするものに進みます。お断りして置きますが、もともと此の分類のしかたも、決して純然たる科学的分類法ではないやうです。要するに常識的説明の便法に過ぎない。芸術の科学的解説といふものを信じない論者は、それで満足することにします。
 扨て「感覚的要素のみより成る演劇」といふものは、理論として存在するに過ぎない。音、色、形、運動、光、なほ附け加へれば香――これらの要素が単に感覚のみに訴へる美感から如何なる形式の芸術が生れるか。これは読者諸君の想像に任せるより外はない。試みに、これ等の要素を結合排列して、或る「場面」を作つて御覧なさい。それは自然現象の成るものを聯想させる光景でなければ、立体派の絵画、未来派の音楽、ダダイストの詩を
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