A未熟な俳優を以てする近代劇の上演に、驚くべき「確かさ」と、未だ嘗て見ざる「生彩」とを与へてゐることを見ればわかります。
 之を要するに演劇の舞台的進化は、近代に於て三つの大きな階梯を経て来たことになります。第一は浪漫的演出の悪傾向に反対して写実的表現による合理的演出が提唱され、第二にはそれがまた実物排列の悪趣味と現実模倣の平坦さに陥つて、象徴的舞台の要求となり、暗示と綜合を標榜する演劇の審美的発達を促し、劇的効果の間接手段が舞台革命の主潮となつた。処で、第三にそれが衒学的独断に陥る危険があるのみならず、演劇の向上はそれのみによつて望むことが出来ない事実を看破して、最近一部の舞台芸術家は一斉に「演劇をして再び演劇たらしめよ」と叫び出した。これは演劇の本質が「言葉」にあることを発見して、一切の劇的効果を「声と動作とによる」幻象《イメージ》の中に求めようとする運動であると云へます。
 即ち最近の演劇は、感覚的要素の舞台表現に行きづまつて、再び心理的要素の完全な、一層直接的な表現を企図し、その要素の最も優れたものを選ぶ傾向になつたのであります。演劇はこゝで一と先づ、あらゆる舞台上の旅行を終つ
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