フゝやうに思はれますが、決してさうでない。たゞ、俳優対舞台監督を問題とする以外に、舞台全体の効果を規正する舞台監督の職能は正に、俳優が、人物の役を演じ活かすのと同様――少くとも――重大な職能であります。然し、重ねて云ひます。これは、如何なる意味に於ても、俳優の威信を傷けるものでなく、却つて俳優の優れた理解力、感受性と相期せずして一致すべき性質のものであつて、それは、俳優が常に、また自分自身の舞台監督でなければならないからです。
舞台に於ける俳優以外の要素、これは舞台監督の想意に基いて実現されるものであります。この要素は、舞台装置機械化、更に演劇の綜合芸術説(後に述べます)に刺激されて、その役割が重大視されるやうになり、勢ひ舞台装飾の研究が近代演劇の著しい特色を示すものとなりました。従つて、これがまた、舞台監督万能主義を支へる有力な根柢となつたのであります。
舞台装飾について
この問題については、後段で詳しくお話しをするつもりでありますが、そして、此の問題が、恐らく近代演劇の様々な運動の骨子となつてゐるのでありますが、こゝではたゞ、演劇に於ける舞台装飾の実際的価値に
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