高のものに熱烈な拍手を送ることでもある。常に共に進み、常に共に励まし、常に相倚り相扶けるといふ精神こそ、新しい団体の精神でなければならぬ。個人主義を批難するものが屡※[#二の字点、1−2−22]団体利己主義の虜となつてゐる今日の現象は甚だ憂ふべきである。
演劇の部門に於ける新団体の結成も、徐々にその機運をのぞかせてゐるが、演劇人並に演劇関係者の厳しい自己反省から先づ出発しなければならぬ。国運を賭してのこの戦ひに臨んで、演劇は正に一死報国を期して起ち上るべきだ。それはつまり、過去の演劇の「肉体」はここで天に返すといふ覚悟が必要だと思ふ。あまりに比喩的だといふならば、もつと明らさまに云はう。先づ、既成の演劇機構は、それぞれの歴史と功罪とをもつてゐるが、この際、自発的に一応解体して全く新しい発足を企てることが急務である。日本演劇の伝統精神は、かかる解体によつて消滅はしない。却つて、現在の真面目な指導者が、腐敗した機構のなかで、真の演劇精神を生かさうとしてゐる無駄な努力がはぶけるだけである。機構といふものは、条文によつて作られてゐるのではなく、人そのものによつて作られてゐることを忘れてはならぬが、一層正確に云へば、人の組合せによつて作られてゐるのである。
今日の演劇人及び演劇関係者は、その職能及び職域を通じ、国家総力戦にどれだけの力を捧げてゐるかといふと、それは百パーセントであるべきだが、どう見てもさうは云へない。力の出し惜しみといふよりは、力の入れどころの誤りからさういふ結果が生じる。これを結合し、方向づけるものがないからである。
戦争の完全な勝利と、国家の永久の繁栄のために、日本演劇の今日以後の在り方を、演劇人及び演劇関係者自らはつきり認識し、万難を排して自分自身をそこへ持つて行くといふことが、何よりも大きな政治への協力であり、政治の推進である。
底本:「岸田國士全集26」岩波書店
1991(平成3)年10月8日発行
底本の親本:「演劇と文化(『演劇論』第四巻)」河出書房
1942(昭和17)年11月20日発行
初出:「演劇と文化(『演劇論』第四巻)」河出書房
1942(昭和17)年11月20日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2010年3月1日作成
青空文庫作成ファイル:
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