究の選賞、自国語の純化を目的とする綜合辞典の編纂改修、外国文学者及び外国文学界との公式の交歓にその任務があり、会員は老後の生活を保証するに足る年金を受ける制度になつてゐるやうである。
 欧米諸国に於て、この種の機関は殆ど例外なく存在するけれども、それぞれ多少の特色を示してゐて、その使命及び業績は一様とは云ひ難い。フランスのアカデミイ・フランセエズ(翰林院)はその歴史最も古く、十七世紀ルイ十四世の時代に創設されたものであるが、会員中には、文学者のみならず、フォッシュの如き軍人もはいつてをり、科学者、宗教家なども、その学識のゆゑにいはゆる「不滅の名」に加へられてゐるものがある。
 そこで、この文学アカデミイは、演劇に於ける戯曲の地位を確保するばかりでなく、その傾向にもある種の影響を及ぼすものであつて、もとより、アカデミイはアカデミイとしての官学臭を帯びざるを得ず、これに対して、絶えず野党的批判はあるにしても、少くとも営利を主とする商業劇場に対して、国立劇場の存在と共に、相当、牽制の役割を果してゐることは事実である。
 次ぎに、劇作家組合の保護である。この組合はもともと劇作家の連帯による自己の利権の擁護を動機として生れたものであつて、ある意味では旧来の「政治」と対立するが、また一方、興行者及び俳優の横暴から劇作家を救ふ点に於て、政府の理解と支持の上に成立つてゐる。
 劇作家組合の規約は、別に法的根拠を有するわけではない。しかし、組合の強力な場合は、殆どこれに匹敵する効力を生んでゐる。例へば、ある劇場が特別な関係を理由として或る特定の作家の脚本のみを上演する場合、組合はそれに抗議して他の作家の作品をも上演することを強要できたり、俳優及び興行者の動もすれば戯曲の文学的価値を無視せんとする傾向に対し、作家は稽古の最後に臨んで若し自己の意に満たざるものある時は、初日を延期する権利を主張したりしてゐるところもある。
 文芸政策と関連をもつ演劇取締の手段として、脚本検閲の問題を見逃すわけに行かぬ。上演脚本の検閲と文学的出版物の検閲とは、その間自ら検閲の標準に手心が加へられることは何処でも同じである。根本の方針は、飽くまでも一貫したものでなければならず、これを行政的に如何に処理するかは、国情によつて、といふよりも寧ろ、その国の芸術政策が何人によつて樹てられるかにより、様々な工夫の跡が見
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