搏Iな協定に到達する以外、進んで、法廷に黒白を争ふことも亦、将来に禍根を残さぬ明朗な態度であると同時に、わが国の文化水準を多少とも高めることに役立ちはせぬかと、私は考へる。
 序に述べておきたいことは、著作者と出版者の間には、現在、さほど面倒な問題は起らぬやうであるが、興行者(職業的なると否とを問はず)との間には、絶えず悶着が繰り返され、多数の劇場乃至劇団は一種の著作権侵害常習犯の観があるのである。これは無論、当事者の法律的知識が足りないところからも来てゐるが、第一に、劇場組織が合理化されず、興行主と著作者とを連結する機関が完備してゐないのである。従つて、興行者自身が、実は知らぬ間に、著作者の権利を蹂躙してゐるやうな場合が多い。畢竟、責任者たるべき某々使用人の怠慢乃至単純な忠義立てから生じた結果なのである。そこで、「すべきことはする」といふ内外に向つての興行者の紳士的宣言は、必ず、この種の紛争を少くし得ると思ふ。これまた、日本の文化のために是非、興行者側の反省を促したいものである。(一九三四・三)



底本:「岸田國士全集22」岩波書店
   1990(平成2)年10月8日発行
底本の親本:「現代演劇論」白水社
   1936(昭和11)年11月20日発行
初出:「東京朝日新聞」
   1934(昭和9)年3月14、15、16、17日
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2009年9月5日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全7ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング