が嘘か本当かわからない。嘘と云つては失礼だが、例の「噂」であるか、「作り話」であるか、「与太《よた》」であるか、そこがどうもはつきりしない。それを真面目に論評などして、物嗤《ものわらひ》になるのもいまいましい。
 次に、報道の要点が外れてゐる。何々座は何日から開演、出演女優は誰それ……あとはわからない。
 僕が、今週これだけ注意して――恐らく生れて始めて――新聞を読み、その結果、前回に述べたやうな意味で、最も興味を覚えたのは、兄弟座の新劇上演と五九郎氏の新作家招待の二件だと云へます。なほ、それにつけ加へれば、読売新聞が、劇作家正宗白鳥氏を拉し来つて諸家の意見を求めてゐることです。
 兄弟座を形造る俳優諸君について、僕は何も云ふ資格はない。ただ、歌舞伎劇の畑に育つた年少気鋭の諸君が、新劇殊に外国劇の演出に手馴た女優諸姉と提携して、新作現代劇にぶつかつて行かうといふ意気と抱負とは、正に刮目すべきでありませう。聞けば、日本当代の名優菊五郎氏が総監督をされるとのこと、察するに、菊五郎氏の眼は――少くとも眼だけは――今、来るべき時代に向けられてゐるのではありますまいか。兄弟座に幸あれ。




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