を残す記録であるかも知れない。しかもその記録は、現代に於て最も謙譲で伸びやかな青年の手によつて書かれ、その結果はおのづから人の涙を誘ふ一篇の美しく激しい物語になつたとみるべきであらう。

       四

 この二作は、どちらも、材料そのものに多くの感動的な要素が含まれてゐるにはゐる。しかし、その感動をかういふ風に純粋な形でわれわれに示し得る力は、偶然、この二人の作者が、人間としての美質に恵まれてゐたばかりでなく、「文学的な」素質を身につけながら、一方「文学者的な」表情や趣味、殊に、気どりと計画をまつたく無視してゐるところから来るのだと、私は解したのである。
 それと同時に、やはり、今日の若い文学に、これらの作品がもつ素朴な情熱と初々しい驚きとを少しは注ぎ込んでいゝのではないかと思つた。
 私一人が特にいまさういふものを求めてゐるのか、それについてはなほもうしばらく考へてみることにする。
 最後に久々で私に快い興奮の一つ時を与へてくれた両作者に感謝し、何れも「戦ひ」のために傷いたからだを早く健康にもどされるやう、蔭ながら切に祈つて筆を擱く事にする。(「文学界」昭和十四年三月)



底本:「岸田國士全集24」岩波書店
   1991(平成3)年3月8日発行
底本の親本:「現代風俗」弘文堂書房
   1940(昭和15)年7月25日発行
初出:「文学界 第六巻第三号」
   1939(昭和14)年3月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2009年11月12日作成
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