「一般人」の風習からみれば、いくぶん同感しがたい節々があつたやうな場合でも、これを直ちに「職業意識」なりと考へる前に、やはり、軍人といふ職分を理解し、それに値する光栄と満足とを十分に享受せしめる同胞的情誼がなくてはならぬといふことである。
戦線にある軍隊への銃後国民の感謝は、もはや今日、絶頂に達してゐる。そこには将士の別もなく、功績の大小も問題ではない。われわれは均しく「戦ふ人の心」を尊しとし、その労苦を偲び、戦勝の報に胸を躍らし、護国の霊に拝跪する。しかしながら、戦闘は有能な指揮者なくして利を得ること難いのであつて、帷幄の謀も、軍政の運用もまた前線兵力の死命を決する要件なのである。
現在及び将来の日本は、それを好むと好まざるとに拘はらず、深慮ある政治家と機略に富む武官との合体によつて、国防国家としての全機能を完備しなければならず、そして同時に、首相の声明にもあるやうに、軍官民の強力な提携のみが事変処理の鍵であり、社会各般の改新と活溌な進展とをもたらすものだとすれば、この、軍部、官僚、国民の三者が、ただ強制的、便宜的、形式的な結合だけで事足れりとするやうであつては、悔いを千歳にのこ
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