識と技術とを修得し、帝国軍人たる自覚と矜恃とをもつて各種の重要職務についてゐる将校なるものは、この時局下に於て、国民注視の的となつてゐるだけに、その性格が十分理解されてゐなければならないと思ふ。
 ところが、それらの人物は、将校生徒として青年期の大部分をまつたく独自な環境のなかにおくり、極めて禁欲的な、秩序立つた、清潔な生活法に慣れ、宗教にまで高められた国家意識と、最も単純にして正常なる道徳と、あくまでも男性的、攻撃的な気力とを養ひ、しかも、一面、如何なる日本人も教へ込まれてゐないやうな儀礼と社交の形式を身につけてゐるのである。
 一方、今日の他の社会部門はどうであらうか? すべてが反対とは云はぬけれども、およそ、実際的にみて、右と左の違ひが、あると云へば云へるのである。
 私は常にさう思ふのであるが、これまでわが国の社会現象として、所謂「思想」の摩擦とか「感情」の対立とかゞ問題にされるけれども、いつたい、さうはつきりと「思想」の摩擦や感情の対立が最初から事を面倒にするであらうか? さういふ場合もないではないけれども、やはり、誤解、乃至意志の疎隔が一番われわれ日本人の間に相互の紛糾をか
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