、特に私の興味を惹いたのは、偶然、この文章のなかで私が指摘した「科学と道徳とは対立するものでない」といふ思想を、文相自身もはつきりこゝで強調してゐることであつた。これまた、近頃の政治家には珍しい声明であつて、国民はこの見識のもとに生れる将来の文教政策には満幅の期待を寄せていゝと思ふ。
たゞ、如何なる正しい企図も、社会の現実に直面しては、よほどの決意と政治的手腕なしには、これを具体化することは困難であらう。国民は当路責任者の善き意志を知つたならば、極力その方策を支持し、万難を排して目的を達成し得るやう努めなければならぬ。
そこで、「国民教育」全般に亘つての改革が必要とされるが、既に前内閣に於て小学校を国民学校とする新制度の発表も行はれ、教授課目の内容についても、一応形式上の整理を見たのである。しかしながら、およそ教育の精神とその実践の効果については、まだわれわれは多大の疑問を抱いてゐる。なぜなら、小学校を国民学校と改称するといふやうな「名目尊重」の気風が現在の指導階級に瀰漫し、一種安易な独善主義ともなり、真の改革に何が必要であるかを忘却してはゐないかといふことを懼れるからである。
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