質の向上を計ること。殊に営利を主とする学校は、情実に囚はれず、これを廃止すること。
五 専門学校以上の教師は、原則として一校限りの専任とし、時間給などゝいふ制度を廃止して十分生活を保証し、学生と接触する機会を多く作らしめること。学生生活の頽廃は、学生と一緒に時間を過す教師の少くなつたことがその原因の大きな一つだからである。
六 上下の学校を通じて、男学生にも現代作法を学ばしめること。これがためには、作法なるものゝ観念をまつたく新たなものとする必要がある。風俗に現はれた社会秩序の精神と、文化の装飾的意義とをまづ徹底させなければならぬ。虚礼との混合を避けることが最も重要である。例へば作法なるものが「西洋料理の正しい食ひ方」などゝいふ題目で代表されるから、現代青年を作法そのものから遠ざけるのである。
七 現在の家庭及社会教育の不備混乱を補ふため、学校に於て、日常生活を健全に、豊富にする実際的指導を行ふこと。この日常生活の規律は、日本人の特性をよく活かし、しかも形式を脱した合理的、自発的、進歩的なものでなければならぬ。如何なる経済的条件にも拘束されない趣味と、矜持と、社交性の涵養が必要である。政治、経済、文化に関する常識はもちろん、恋愛並に結婚の問題に関しても、両性それぞれの立場に於ける正常な観念が樹ゑつけられるのはこゝに於てゞある。
八 軍事教練はある意味に於て、もつと重要視されなければならぬ。ある意味に於てといふのは、学校当局の一層理解ある協力を侯つて初めてその目的が達し得られるといふことである。つまり学生をして教練をする心構へをつくらせるのは学校当局の責任である。
九 学校に於ける諸儀式が学生にとつてまつたく魅力のないものであることを考へたなら、これをまづなんとか工夫しなければならぬ。十分に反省を要する問題と考へられる。儀式を真に儀式らしくする能力は、現代の日本人が是非とも養はねばならぬ点である。青年の元気を鼓舞し、感情を浄化し、よろこんで協同の目標に邁進するといふ厳粛な気分を起さしめるのは、最も芸術的に仕組まれた儀式のうちに於てゞある。儀式の尊重は作法のそれの如く、まづ時代に即した新しい観念と、尊重するに足る形態美を示さなければならない。
十 外国語についても、私には私の考へがあるが、長くなるから今こゝでは述べぬ。たゞ、文相の英断によつて、区々の議論を整理一致させて
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