一つの試案
――「列」解消のために
岸田國士

−−
【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
−−

       一

 先ごろから、魚屋、八百屋、菓子屋などの店先き、多くの主婦たちが一列に並んで順の来るのを待つてゐる買物風景は、どこへ行つても見ないといふわけにはゆかない。
 日本は、まだまだ食ふに困らないだけのものは持つてゐる。みんなが、ちよつと不自由を忍ぶならば、一時間も二時間も並んで待つまでもなく、日常に食ふだけのものは間に合ふ筈である。もちろん、思ふとほりのものが、思ふぞんぶんに食べられるといふことはない。しかし、すべての人が同じやうに不自由を忍んで行かうとすれば、けつして食ふに困るといふことはないはずである。
 なるほど物資の不足は、相当われわれの生活を不自由にするほどになつてゐる。しかし、それはものがないのではなく、ただ、それが一時、国民のすべてに行渡らないといふやうなことで、部分的に相当不自由を感じてゐるのであつて、その点さへうまくゆけば、けつして忍べないほどの不自由で
次へ
全7ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング