ちよつと、そんな大きな声をなすつていゝの……。
卯一郎 (得意と満足の微笑を末子の方におくり)あんたの顔を見たら、急に元気が出て来ましたよ。しかし、帰つたら、茂七君にもさう云つて下さい。「榊卯一郎も、近来めつきり疲れが出て、なんとなく心細い。親類らしい親類はほかにないんだから、忙しくもあらうが、時には、顔を出してせい/″\陽気な笑ひ声を聞かしなさい」つて……。
末子 それをうちでも、さう云つてるんですよ。ほんとの兄弟みたいに思つてるんだから、ちよく/\行かなきや悪《わる》いんだけれどつて……。それが、あの億劫がりでせう。追ひ出すやうにしなきや、お風呂にだつて行かないんですもの……。それやさうと、ねえ、とま子さん、お願ひがあるの。ほら、こちらの手袋さ、一つ原価でわけて頂けないかしら……。うちで頂いたのは、まだ結構使へるんだけど、お隣りの奥さんが、そんなわけなら、特別に幾らか割引してつておつしやるんでせう、あたし、お安い御用だつて云つちやつたの……。
卯一郎 あゝ、いゝですとも……。たゞで上げたつてかまはないんだけど……。
末子 いゝえ、それや困りますわ。
卯一郎 こつちもさうで
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