いとわからないつて云ふぢやないの。
卯一郎  だから一人の医者にきめようと思ふんだが、これといふのに、まだぶつからないんだ。今まで診《み》せたうちで、博士といふ奴が三人もゐたけれど、一人として、命を委《まか》せてもいゝと思ふやうなのはゐなかつた。第一、見立てがあやふやだ。一週間で直すと云ひながら、一月《ひとつき》かゝつても直さない。初めのうちは、効《き》かない薬を飲ましよるに違ひない。
とま子  さうぢやないのよ。あんたの病気ぢや、大概のお医者が困るのよ。だつて、病気つて云へるほどの病気は、ひとつもないんですもの。
卯一郎  それは、お前の口癖だ。非難とも取れるし、慰めとも取れる。どつちにしても、おれには必要でない。いゝかい、最後にもう一度云ふが、おれが病気だと云つたら、お前だけは、もう少し、同情してくれ。痛いと云つたら、どれくらゐ痛いか察してくれ。それでこそ夫婦ぢやないか。そこは腹だよ、もつと上だ、心臓は……。
とま子  (笑つて)こなひだうち、さんざお腹《なか》を揉まされたもんで、まだ癖がついてるんだわ。
卯一郎  笑ひごとぢやないよ。あゝ、苦しい。呼吸《いき》が苦しい。枕を低くし
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