います……さきほどの……はい、どうぞ……」
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卯一郎  (呼鈴を押す)遅かつた。いや、遅くない。誰でもいゝ。側にゐてくれ。

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小僧の三木が上つて来る。
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卯一郎  あ、お前か、三木か、丁度いゝ。そこへ坐れ。配達は、もうすんだか。御苦労だつた。今に給金を上げてやるぞ。明日は、何処々々だ? 返事はしなくつていゝ。何をきよろきよろ見てるんだ。もつと落ちついて、おれの云ふことを聴け。いゝか、来年は工場をうんと拡張する。お前たちにも部屋をあてがつてやる。広いことはいらん。三人で四畳半なら沢山だ。女工の数も三倍に殖《ふ》やす。気の利いた事務員を一人置く。女でも差支へない。手紙が書けさへしたら……。さうだ、中古のオートバイを一台、無論、配達用だ。お前、乗り方を稽古しろ。おや、足がしびれて来た。医者はまだか。起たなくつていゝ。足をつねつてみてくれ。こゝだよ、足は……。(小僧は毛布の下に手を差し込む)さうだ、そこを、ぎゆつと、……かまはん
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