津幡 だつて、心臓は誰の心臓でもこんなもんですよ。
卯一郎 誰の心臓でも? なるほど、今は当り前に打つてるやうですな。呼吸も楽《らく》になりました。どうも発作的に来るやうです。
津幡 さうでせう。しかし、それなら心配はありません。――と、まあ、医者なら云ふところですな。尤も、さう云つてゐて、今夜にも急変がないとは保証できませんがね。それはしかし、われわれの力で、予測はできませんからな。
卯一郎 何か薬のやうなものは……。
津幡 必要ないでせう。是非欲しいとおつしやれば、なんか差上げてみませう。
卯一郎 では、仮に、また発作《ほつさ》が来たやうな場合、どうしたらいゝでせう。
津幡 過ぎ去るのを待てばいゝでせう。
卯一郎 発作が起らないやうには出来ませんか。
津幡 原因を除くんですか? 原因なんかさう簡単にわかりませんよ。まあ、神経性のものなら、神経を鎮める方法もありますが、医者の顔を見て発作《ほつさ》が治まるくらゐのもんなら、却つていぢくらない方がいゝでせう。元来、病気なんてものは、医者の手で幾割なほせますか。仮に病源を適確に探りあてて、理論通りの処置をしたとして、その
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