んですけれど……いえ、それほどでもございません……さきほどまで元気で……いえ、そんなこともないらしうございます……は? あゝ、それでは、ひとつ、早速……お迎ひは……さうしていたゞいて結構でございます……では、どうか……」
とま子が上つて来る。
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卯一郎 どうしたんだ。
とま子 電話をかけてる最中に、往診から帰つてらしつたの。丁度よかつたわ。
卯一郎 あんな頼み方ぢや、向うはゆつくり構《かま》へてるかも知れんぞ。それほどでもございませんと云つてたのはなんだい。
とま子 苦しがるかつて訊《き》くからだわ。
卯一郎 それほどでもないつてことが、お前にわかるかい。好い加減なことを云ふもんぢやない。もう一度掛けて来い。大変苦しがつてるつて……。
とま子 あれくらゐに云つとけばよくつてよ。
卯一郎 よくないよ。その後で、そんなこともないらしうございますつて云つたね。なんだ、あれや……。
とま子 脈が途切れるやうなことはないかつて……看護婦よ、そんなこと訊《き》くのは……。
卯一郎 訊くのが当然だ。そんなこと
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