》を主人夫婦の居室に充ててゐる。一方は十畳の座敷で、絨氈を敷き、テーブル、椅子など、すべて洋風客間の作り、但し、一隅に、ソファ兼用の寝台があつて、現に、榊卯一郎は、それに寝てゐるのである。隣りは、八畳の純日本間。箪笥、鏡台、長火鉢、その他、ひと通りの家具。不統一のなかに、何処か生活の余裕らしいものを見せてゐる。

舞台は、この二階だ。正面奥は障子を隔てて縁側。

冬のはじめ、午後二時頃、空は晴れてゐる。
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卯一郎  あゝ、痛い、痛い。それ見ろ、誰も側にゐなくつたつて、痛い時は痛いんだ。病気を大袈裟に云ふなんて、おれの性分ぢやない。おい、奥さん、済まないが、また二分ばかり、さすつてくれ。奥さん、そこにゐないのか。(呼鈴を押す)

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女中きぬが上つて来る。
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きぬ  なにか御用でございますか。
卯一郎  (鼻を鳴らし)生魚《なまざかな》をいぢつて来たな。云つとくがね、おれはその臭《にほ》ひが何よりも嫌ひなんだ。
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