ありません。
此処で、敢て言ひますが、同氏はかねて、その劇評乃至戯曲評に於て、私の作品を故《ことさ》ら非難攻撃された跡が歴然としてゐます。このことは、私が自分の感情を偽つてゐない証拠に書き添へるのですが、私個人としては、終生忘れることの出来ない事実です。しかしながら、それには相当な理由がある。その理由は、何時か、誰かゞ明かにしてくれるでせう。私は、たゞ此の機会に、日本新劇界の大先輩に対し、その生前に於て、聊か礼を失した憾《うら》みがあることを、深く謝する次第です。
なほ、一学徒として望みたいことは、小山内氏の如き演劇実際家の業蹟は、動《やゝ》もすれば記憶から逸し易く、故人の功績を伝へる意味からも、将《は》たまた、日本新劇運動史の頁を飾る上からも、速かに之を完全な記録として整理保存する機関を設けられたい。
最後に、私は政府当局の注意を促したいのですが、同じ芸術家や文学者でも、余人は扨《さ》て措《お》き、一国の特殊な文運にこれほど顕著な貢献をしたわが小山内薫氏に対し、国家として十分の表彰手段を講じて欲しいものです。これも差出がましい云ひ草ですが、恐らく今日世界劇壇の視聴を集めるに違ひ
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