から変節ではない。――といふのである。
ヴォルテールの「変節」の動機に関しては、もう一つおもしろい個人的な理由がありました。さつき申したルトルヌウルといふシェイクスピアの翻訳全集を出した人は、劇評家でもありましたが、この人がフランスの戯曲家総論といふやうな本を書きましたが、その書物のなかに、「フランスにおける偉大なる劇作家」といふ項目がある。それにはラシーヌ、モリエール、コルネイユ、マリヴォー、さういふ人を入れてゐながら、ヴォルテールの名前を入れなかつたのです。そこでヴォルテールは、そのルトルヌウルに対する反感から、シェイクスピアを同時にやつつけたんだといひます。これは甚だヴォルテールらしい、天才的な態度であつて、われわれは到底まねることが出来ないといふことを、ファゲがフランス式の諧謔まじりで書いてをります。
十九世紀になつては、例の Stendhal が、一八二三年に「ラシーヌとシェイクスピア」といふ題で一大論文を発表してゐます。彼はフランス劇壇では神の如く祀り上げられてゐるラシーヌをシェイクスピアに較べて、今日われわれの学ぶべきはシェイクスピアである、今の人間の心を写す上からも
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