いて、最近おもしろい意見を発表してゐる一学者があります。それは Emile Faguet といふ劇評家兼アカデミイ会員です。(もう亡くなりましたが)この人はその一著の中で、右の「変節」について弁護をしてゐる。自分は一体ヴォルテールが非常に好きで、いつでも彼のためには弁護の地位に立つ者だが、右の「変節」問題についても一言弁じたいと前提しまして、ヴォルテールはシェイクスピアの第一の紹介者として功労があるのみならず、シェイクスピアを善く理解し、その偉大さを十分芸術家的に味得した、今日迄の有数な人の一人である。従つて、ヴォルテールが最初シェイクスピアを非常に褒めて紹介をした時と、その後何十年かの後に、彼れを殆んど罵倒せんばかりに批評をした時と、必ずしも考へは変つてゐない。たゞ、初めて紹介した時のヴォルテールは一種の革命家であつたからシェイクスピアの長所を強調するに力めた。ところが数十年経つて後には、ヴォルテールは、文学的にも思想的にも、既に一個の反動家となつてゐたのである。だから、その当時余りに世間にかつぎ上げられてゐるシェイクスピアに対して、寧ろその悪いところを強調して警戒したに過ぎない、だ
前へ
次へ
全18ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング