づくる階級的乃至職業的「型《タイプ》」をとらへて、微細な観察を下し、之を特殊な「境遇」の中に投げ込み、一種のグロテスクな、同時に涙ぐましい笑ひを引き出す手腕をもつてゐる。深刻な人生批評とまでは行かないが、犀利にして軽妙な性格描写の筆は最もよく、社会の戯画的諷刺に成功した。
 彼は、仏蘭西人特有のあらゆる感情のニュアンス、巴里生活のあらゆる機微な問題と、そのゴオル人らしい機智《エスプリ》と、|寛大さ《ジエネロヂテ》を以て傍観し、いくらかのペシミスムと、あり余る皮肉とを、洒脱なファンテヂイに託して、冷たい花びらの如く、人の頭上に振りまくのである。
 彼の数多い作品中には、相当「一夜漬け」があるにはあるが、此処に掲げた二篇のみ、前掲、「ブウブウロシュ」「真面目な花客」「殴られる心配」等は傑作の部に属すべきであらう。
 彼は、その旧友や後輩たちが、続々アカデミイ入りをするのを平気で眺めてゐる。そして、彼にも、亦、その花々しい経歴を背負つて、立候補すべきを勧めるものがあると、彼は笑つて、「競争者がなければ……」と答へてゐるさうである。



底本:「岸田國士全集20」岩波書店
   1990(平
前へ 次へ
全4ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング