床を叩くのである)を持つて立つてゐるのである。
そこで、私が案内されたのは、此の小さな部屋である。
コポオは、二三人の座員となにか話をしてゐたが、私の顔を見ると、右手で私の手を握り、左手を私の肩にかけて、頗る気軽に応対をしてくれた。
私はその時、予め用意して行つた文句をぶつぶつ云つたことは云つたが、なにしろ気をのまれてゐるので、ろくに舌がまはらず、ただ「ボン、ボン」といふコポオの声が、わけもなく私を感激させた。
やがて、彼は、傍らの一人に向ひ、「おい、バッケ、お前の受持だよ、此の青年は……。家《うち》のものと同じだ。なんでも見せてあげるやうに……」
それから、事務員を呼んで、毎回稽古の通知を出すこと、自由に小屋の出入を許すことなどの注意を与へてくれた。
バッケといふのは、「ルルウ爺さんの遺言」で主役をやり、附属演劇学校でデクラマシヨンの講義をしてゐる親切で暢気な俳優である。
何が困難だと云つて、殆ど毎日顔を合はしてゐるコポオと口を利くぐらゐ困難なことはあるまい。彼は一時も、ぢつとしてはゐないのである。
こちらも、また、つまらないことを話しかけて、時間を潰させてはと思
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