アンテジイにも心を惹かれてゐるらしく思はれる。彼は、まだ、近代的伝説美の創造をほのめかして、希臘劇の伝統を云々したことさへあるのである。夙に自然主義の病根を「自然の模倣」にありとし、ナチュラリスムに対してナチュリスムを唱へ、自然の外貌を描くことよりも、その本体を、その魂を捉へることの必要を力説した。そしてその本体、その魂を昔ながらの運命に結びつけた。所詮彼は一個の情熱的詠歎家であり、その作品中のみならず、その感想等に於て、詩人らしき幼稚さと善人らしき諄《くど》さを、やや勇敢に振撒いてゐる。
とは云ふものの、千九百年代の初頭に此の作を示した戯曲家ブウエリエは、やはり、一個の先駆的芸術家であつたことは争へない。そこには、在来の写実劇には見られない「感情の昂揚」があり、たとひ比喩の域を全く脱し得ないにもせよ、やや暗示に近き心理描写によつて、次の新しい時代を開いた功蹟は、ポオル・クロオデルと共に仏国戯曲史の一頁を飾る資格がある。
殊に、所謂ポエジイ・アンチイム、即ち、日常生活の中に織り込まれたおのづからな「詩」を、極めて直截な表現を以て、かくも高らかに之を舞台の上に活かし得たことは、何と云
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