は、O君の方を見ました。踊り好きの細君は、これもいやがるO君の両手を引張りながら、もう足だけは風琴の音に合はせてゐます。
「駄目よ、そんな顔したつて……」
わたくしは、どんな顔をしてゐたのでせう。多分、「君踊るかい」といふやうな眼つきをしてO君の方を見た、それなのでせう。それとも、「困つたことになつたなあ」そんな顔をしたかもわからない。O夫人は、御亭主とわたくしを両手に引据ゑて、「さ、あなたはマドムアゼルP……と手をおつなぎなさい。あんたは――と夫の顔を見て――あんたは、さうだ、マダムM、ねえ、ちよいと、奥さん、此の人の右の手を預かつて下さらない」
マドムアゼルP……と呼ばれた少女は、やゝはにかんでゐるらしく見えました。
此の憂鬱な東洋の青年が、恐る恐る差し出す手を、彼女はしばらく見つめてゐました。指は五本ある――彼女は、急に元気よくわたくしの手に飛びついて来た。実際、飛びついて来たのです。
人の輪が、静かに、左へ左へと廻りはじめました。
単調な、素朴な、そしてなんとなく神秘なその風琴の舞踏曲が、古めかしい民謡のもつ独特な世界へ人々の心を惹き入れました。
わたくしは、マドム
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