ラスへ出て、話しをしたり、歌を唱つたりしました。グラン・ギニヨル(物凄い芝居)の声色を使つて、女どもを喜ばせてゐる一癖ありさうな若者などもゐました。
 ある晩、瓦斯会社に出てゐるといふM氏の細君が、「あなた方は若い方ばかりのくせに、どうして踊らうとなさらないの」と、さも心外らしく、一座の人達を見まはしました。
「ぢや、奥さん、ピアノをどうぞ」Sといふ工手学校の生徒がやり返しました。
 食堂には、自働ピアノが置いてありました。
「僕は、風琴弾きを雇つて来ることを提議します」これはTといふ新聞記者でした。
「賛成」口々にかう叫んだ。

 読者よ、今こゝで丁度月が出ることを許して下さるでせうか。そして、わたくしが少しばかり物想ひに沈んでゐることを……。
 口髭を生やした大男が、風琴を提げてやつて来ました。
「リデエ!」
「リデエ!」
「リデエ!」
 娘たちが騒ぎました。
 リデエといふのはブルタアニュ特有の踊りなのです。
「さ、みんな輪になつて……」
 郵便局の事務員、月給四百|法《フラン》のC嬢は、その弟の手を取りました。
「僕は、リデエなんか知らないよ」
「来ればわかるのよ」
 わたくし
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