わり]
二月四日(木曜)晴
[#ここから1字下げ]
朝、寝台車の窓から、霧に包まれたピレネエの山が見える。
七時、ポオに着く。はじめて、カメリヤが咲いてゐるところを見る。
外套を脱ぎたいほどの暖かさ。日光が眩しい。
馬車で、町はづれのサナトリウム・サン・モオルへ行く。
あたしたちが案内されたのは、西班牙《スペイン》風の建物の下の一室で、建物の入口には、ヴイラ・セリユバンといふ札が出てゐる。
[#ここで字下げ終わり]

二月十八日(木曜)雨後晴
[#ここから1字下げ]
今日はじめて、一人で散歩をする。
公園へ行つて孔雀が飛んでゐるのを見たり、野菜市場で聞きなれない土地の方言に耳を傾けたりする。
それから、アンリ四世のお城を一と廻りして、ホテル・ド・ラ・フランスの前まで来ると、ぱつたり、ムツシユウ・ロベエルに遇つた。明日、馬車で、「|微笑みの谷《ヴアレエ・スウリヤント》」へ連れてつてやるとおつしやる。
ムツシユウ・ロベエルは、詩を書いてらつしやるだけあつて、美しい「微笑みの谷」の眺めを、眼に見えるやうに説明なさる、言葉ははつきり覚えてないけれど、冬の眠りから醒めようとする自然が、微笑みをも
前へ 次へ
全4ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング