うと思つたの。さうしたら、あの人だつたんだわ。病室へはひると、いきなりそばにゐた男が、「あなた、英語はできますか」つて訊《き》くぢやないの、誰かが、好い加減なことを云つたのよ、きつと……。あたし、黙つて、笑つててやつたわ。病院でも、西洋人の入院患者は初めてだつていふし、あたしも、西洋人なんかに附くのは初めてなんですもの……。なるほど、勝手が違ふのなんのつて、いちいち先生のところへ訊きに行つちや、叱られたもんだわ。
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椅子を引き寄せ、脚をがたがたさせながら
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――その晩、体温を計ると、四十度二分……。苦しさうに呼吸《いき》をしてるの。あたしがそばへ行くと、眼をあけて、何か云ひたさうにするんだわ。よく見ると、そんなに怖《こは》い顔ぢやないんだけど、なんて云つたらいゝのかしら……やつぱり、気味が悪《わる》いんだわ。鼻なんかでも、鳥の嘴みたいで、赤い筋がいつぱい見えるし、眼は、黒眼んところが妙に銀色をしてるし、髪の毛は、そんなに縮れてないけど、それは、おほかた禿げてるからなの。
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