ん空想の世界に引きずり込まれるやうに
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――ねえ、わかつてくれる、あんた……? 聴いててくれる? 眼の前で、声が聞えれば、なにを云つてるんだかわからなくても、かうして、離れてゐて、あたしのことを、少しでも思ひ出しててくれゝば、きつと……きつと、あたしの云ふことがわかる筈だわ……。先づ、第一に……あたし、あんたに心からお礼を云ふわ……。なんて云つても、あたしは、仕合《しあは》せだつたんですもの。女としての、重荷を負はない幸福が、あんなに易々《やす/\》と得られたことは、あんたが、何処かほかの男と違つてゐたからだわ。でも、その代り、あたしを、少しばかり褒めて頂戴……。どういふとこか、云つてみませうか。あんたの邪魔にならなかつたところ……。

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起ち上り、やゝ朗らかに
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――あたしは、もう二度と、あんたのやうな男に出くはすことはないと思ふわ。それはそれでいゝの。たゞ、どんな男とでも、次の日の約束だけはしないつもりよ……。

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