て行つてくれることもあります。女学生は、みんな、ラシイヌとか、モリエールとか、コルネイユとかいふ劇作家の名を識つてをり、その脚本の一部分を暗誦してゐるんですから、さういふ場面を舞台で観、名優の口から、台詞としてそれを聴かされる時の感銘も、また一段と深いわけです。

 日本では、たまに外国の歌劇団などを迎へて大騒ぎをしてゐますが、巴里《パリ》には、楽劇を何時でもやつてゐる劇場が沢山あり、そのうちでも、オペラ座と、オペラ・コミツク座とは国家が利益を度外視して経営してゐるのです。オペラ座は、俗に、グラン・トペラと呼んでゐますが、オペラ・コミツク座との区別は、説明しなくてもおわかりでせう。つまり、ファウストや、タイスや、アイイダなどはオペラ座でやり、カルメンや、マダム・バツタアフライなどはオペラ・コミツク座の方でやります。入りの多いことは、何と云つてもオペラ・コミツクです。安い席などは、お昼頃から切符売場の前で待つてゐないと買へません。気の長い話ですが、お弁当のサンドウイツチと編物の道具とを手提袋に入れ、畳椅子をぶら提げて、わざわざ出かけて行くお神さんなどがあります。開幕前までには、さういふ熱
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